◇WIPSS第73回定例研究会開催記録
- 開催日時:2019(令和元)年11月16日(土)15:00−18:30
- 開催場所:早稲田大学早稲田キャンパス8号館4階412教室
- 報告者・報告タイトル:
洪 士軒 氏(早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程)
「台湾における触法精神障害者に対する保安処分(監護処分)に関する考察」
萬歳 寛之 研究所員(早稲田大学法学学術院教授)
「南シナ海問題をめぐる国際法課題」
- 報告概要:
第一報告では、洪氏から、台湾における触法精神障害者に対する保安処分である監護処分の制度を説明された後、監護処分の認定に
関する大法官解釈と下級審の傾向、また今後の課題について報告が行われた。
報告後、監護処分と日本の医療観察制度や精神保健福祉法上の措置入院制度との差異等について質疑応答が行われ、制度や法の解釈
のみならず、運用の実態を調査・検討することの重要性が指摘された。
第二報告では、萬歳研究員から、南シナ海問題において中国が主張する九段線の機能、南シナ海仲裁判決の内容やその後の各国の対
応に関する検討を踏まえながら、国際法上の課題について報告が行われた。
報告後、国際法における判決の法的拘束力について質疑応答が行われ、紛争解決手段のあり方に関する活発な議論が行われた。
〈第73回定例研究会風景〉
◇WIPSS第74回定例研究会ならびに警察政策学会研究部会(「子供を守るための地域連携研究部会」)の公開研究会の開催記録
- 開催日時:2020(令和2)年1月11日(土)14:00−18:00
- 開催場所:早稲田大学早稲田キャンパス8号館B1階B107教室
- 主催:早稲田大学社会安全政策研究所、後援:警察庁警察大学校警察政策研究センター
- テーマ:「子どもを守るための警察を起点とした地域連携のあり方(第2回)―学校でのいじめや校内暴力事案ならびに児童虐待事案を中心に―」
第一部 各県警本部からの報告
第二部 パネル・ディスカッション
コーディネーター
石川 正興 WIPSS顧問(早稲田大学名誉教授)
総合司会
宍倉 悠太 WIPSS招聘研究員(国士舘大学法学部専任講師)
第二部パネル・ディスカッションの司会
江ア 澄孝 WIPSS招聘研究員(国士舘大学法学部・関東学院大学法学部講師)
報告者
金子 孝子 氏(新潟県警察本部生活安全部少年課課長補佐)
内藤 慎二 氏(愛知県警察本部生活安全部少年課課長補佐)
石原 智子 氏(宮城県警察本部生活安全部少年課少年サポートセンターせんだい所長)
浦住 健一 氏(埼玉県警察本部生活安全部少年課課長補佐)
瀬戸 徹哉 氏(埼玉県警察本部生活安全部少年課課長補佐)
- 概要:
第一部では、@新潟県における最近の少年非行の現状・傾向及び県警少年サポートセンターの活動状況について、A愛知県に
おける性被害を受けた少年の現状及び立ち直り支援活動について、B宮城県におけるスクールサポーターの支援内容及び県警少
年サポートセンターの立ち直り支援活動について、C埼玉県におけるスクールサポーター制度の活動内容及びその効果について、
各県警の報告者から報告が行われた。
第二部では、学校でのいじめや校内暴力事案ならびに児童虐待事案を中心に、子どもを守るための警察を起点とした地域連携
のあり方について、主に学校・教育委員会や児童相談所との@人的連携(人事交流)、A協定書など文書等による連携、B場所
的な連携(ワンストップサービス)、C情報共有システムなどによる連携(システム共有)の観点から各県の現状と課題につい
て討議が重ねられた。
その中で、教育委員会との人事交流に関する効果的事例として、教育委員会から警察に派遣された教員を通して得られた知見
により、グループワークを用いた双方向の授業(非行・薬物乱用防止教室)ができるようになったとの報告がなされた。
児童相談所との人事交流について、現職の警察官が児童相談所に出向・派遣することの意義について質疑がなされ、各報告者
から@情報共有が早くなること、A警察と児童相談所との児童保護に関する合同訓練などの対処ができるようになること、B司
法面接や事件化の検討が迅速に行われるようになること、C子どもが家庭復帰する場合に的確に役割分担ができるようになるこ
となどの効果があるとの報告がなされた。
〈第二部パネル・ディスカッションの様子〉

〈フロアーの様子〉

◇WIPSS第75回定例研究会開催記録
- 開催日時:2021(令和3)年10月30日(土)15:00−18:30
- 開催場所:オンラインでの開催(Zoomウェビナー)
- 報告者・報告タイトル:
宍倉 悠太 招聘研究員(国士舘大学法学部准教授)
「少年の性非行防止に関する初期対応の展望―問題のある性行動に対するマルチシステミックセラピー(MST)を題材とした一試論―」
脇坂 成実 招聘研究員(早稲田大学比較法研究所英米少年法研究共同研究者)
「イタリア王国の少年法制」
- 報告概要:
第一報告では、宍倉研究員から、問題のある性行動に対するマルチシステミックセラピー(MST)に関する英国での検証結果を踏ま
えながら、わが国における少年の性非行防止のためのMSTの展開可能性について報告が行われた。
報告後、英国で調査対象として非行名が性非行に絞られた理由や性非行の定義等について質疑応答が行われるとともに、わが国で
MSTを展開していく上での少年鑑別所の関与のあり方について議論がなされた。
第二報告では、脇坂研究員から、1861年に成立し1946年まで続いたイタリア王国のリベラリズム期とファシズム期の2つの時期に
おける少年法制に関する報告が行われた。
報告後、イタリア王政時代の少年法を考察対象にしたことの刑事政策学上の意義や犯罪学の歴史における「イタリア実証学派」がイ
タリア王政時代の少年法制定に与えた影響について質疑応答が行われ、刑事政策学上の問題意識を鮮明にしたうえで考察・論証す
る必要性が指摘された。
◇WIPSS第76回定例研究会開催記録
- 開催日時:2022(令和4)年3月26日(土)15:00−18:30
- 開催場所:オンラインでの開催(Zoomウェビナー)
- 報告者・報告タイトル:
大橋 哲 招聘研究員(元法務省矯正局長)
「矯正行政の展開」
今福 章二 招聘研究員(特定非営利活動法人日本BBS連盟会長、元法務省保護局長)
「更生保護の諸課題と展望」
- 報告概要:
第一報告では、大橋研究員から、行刑改革会議及び同会議提言以降の矯正行政を中心に、監獄法改正や近年の再犯防止施策の動
き、そして法制審議会の答申を受けた今後の展望に関して報告が行われた。
報告後、司法と福祉の連携の動きが進むなかで、また拘禁と処遇という対立する要請が存在するなかで、矯正の意義や役割につ
いて質疑応答が行われ、社会の中における収容施設としての役割や個々の受刑者の特性や環境に応じた処遇の必要性が議論され
た。
第二報告では、今福研究員から、更生保護に関する時代区分を振り返りつつ、21世紀の更生保護改革について説明された後、新
たな展開として本国会に提出されている法改正やその課題を検討したうえで更生保護の今後の展望について報告が行われた。
報告後、提言された保護観察所の地域更生支援総合センター化の具体的内容について質疑応答が行われ、息の長い支援や地域社
会への働きかけの実施という役割の重要性について活発な議論が行われた。
〈報告をされる大橋招聘研究員〉
〈報告をされる今福招聘研究員〉
◇WIPSS第77回定例研究会開催記録
- 開催日時:2022(令和4)年5月14日(土)15:00−18:30
- 開催場所:オンラインでの開催(Zoomウェビナー)
- 報告者・報告タイトル:
千田 早苗 招聘研究員(NPO法人チダラボ理事長)
「特定非営利活動法人チダラボの活動について−人生100年時代の持続可能な生涯学習と政策提言−」
小林 万洋 招聘研究員(長野大学社会福祉学部教授)
「矯正と人間科学−矯正心理学の実務をめぐっての一考察−」
- 報告概要:
第一報告では、千田研究員から、検察実務に携わってきたご経験を含むNPO法人設立までの経緯及び法人が現在行っている研究
活動(問題行動修正教育研究・子どもと家庭の問題研究・心理学とメンタルケア研究)やリカレント市民大学などの事業、さら
に今後の展望について詳しい説明が行われた。
報告後、入口支援における検察の役割について質疑応答が行われ、検察庁や保護観察所といった刑事司法関係機関が地域社会と
の繋がりを持ち、自治体などとともに再犯防止を実施していくこと、そしてその中に被害者支援なども含まれていることの重要
性について議論がなされた。
第二報告では、小林研究員から、矯正施設における人間科学の法的位置付けや矯正心理学について理論的な観点から説明がなさ
れ、その上で少年鑑別所法成立に向けて行われた様々な取組や刑事施設における釈放者保護の現状・課題を踏まえながら、矯正
心理学の今後のあり方について報告が行われた。
報告後、心理技官の育成や研修における課題が指摘された。また、少年鑑別所法制定の具体的成果について質疑応答が行われ、
特に地域援助業務において法的基盤が整備されたことの意義が示された。
<報告をされる千田招聘研究員>
<オンラインで報告をされる小林招聘研究員>
◇WIPSS第78回定例研究会開催記録
- 開催日時:2022(令和4)年7月16日(土)13:00−16:30
- 開催場所:会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館3階312教室及びオンラインでの開催(Zoomウェビナー)
- 報告者・報告タイトル:
飛田 桂 招聘研究員(弁護士、NPO法人子ども支援センターつなっぐ代表理事)
「forensic interviewing(司法面接)の最新議論状況」
生島 浩 招聘研究員(福島大学名誉教授)
「社会内処遇におけるシステムズ・アプローチ―更生保護学私論―」
- 報告概要:
第一報告では、飛田研究員から、アメリカの司法面接研修における内容等も踏まえながら司法面接の定義・手法・構造などに
ついて検討が行われ、日本における司法面接に関する現状や今後の課題について指摘がなされた。
報告後、司法面接の在り方が議論され、現在飛田研究員が代表理事を務めるNPO法人で取り組んでいる日本版の司法面接構造
の作成や司法面接研修の活動を紹介いただき、文化的背景によって内容を変えていくことの重要性が示された。
第二報告では、生島研究員から、大学生・保護観察官・大学教員としてのご自身の各時代における研究について、執筆した論
文や書籍の紹介とともに説明がなされ、その上で更生保護学という学問分野の創成・展開について報告が行われた。
報告後、司法と福祉の関係について質疑応答が行われ、一面的な「役割分担」論ではなく、専門職の「ダブルロール」の重要
性が示された。さらに、家族や地域社会を含めた多職種・多機関連携の中における専門職の在り方について議論が行われた。
<報告をされる飛田招聘研究員>
<報告をされる生島招聘研究員>
◇WIPSS第79回定例研究会開催記録
- 開催日時:2022(令和4)年9月17日(土)13:00−16:30
- 開催場所:早稲田大学早稲田キャンパス8号館3階312教室及びオンラインでの開催(Zoomウェビナー)
- 報告者・報告タイトル:
皆川 誠 招聘研究員(名古屋学院大学法学部准教授)
「国際法における国際テロリズムと国際組織犯罪の関係」
江ア 澄孝 招聘研究員(関東学院大学法学部地域創生学科客員教授)
「DXの推進と社会安全政策の範囲拡大」
- 報告概要:
第一報告では、皆川研究員から、国際法における国際テロリズムおよび国際組織犯罪の定義について検討が行われ、国際テロ
リズムと国際組織犯罪のオーバーラップ現象に関して指摘されるとともに、それぞれの定義を策定する必要性が示された。
報告後、質疑応答が行われ、両者の区別に関して学術的な観点からだけではなく、実務的な観点からも課題を調査する必要性
について指摘がなされ、また両者の定義をすることの意義について議論が行われた。
第二報告では、江ア研究員から、社会安全政策の範囲が拡大している現状や政府のDX(デジタル・トランスフォーメーショ
ン)化の取組について紹介がなされ、DXの推進によるサイバー・セキュリティの必要性について報告が行われた。
報告後、DXを推進すべき分野とすべきでない分野について質疑応答が行われ、人間でしかできない知恵の発揮や対人行動の重
要性が示されるとともに、DX化における多機関連携の在り方について議論が交わされた。
<報告をされる皆川招聘研究員>
<オンラインで報告をされる江ア招聘研究員>
◇WIPSS第80回定例研究会開催記録
- 開催日時:2022(令和4)年11月19日(土)13:00−16:30
- 開催場所:会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館3階312教室及びオンラインでの開催(Zoomウェビナー)
- 報告者・報告タイトル:
世取山 茂 招聘研究員(元警察庁東北管区警察局長)
「警察の責務と犯罪対策−2016〜2017年における茨城県警察の取組−」
廣瀬 健二 招聘研究員(立教大学法学部特定課題研究員、元同大学大学院法務研究科特任教授)
「少年法制の現状と課題−少年法研究私史−」
- 報告概要:
第一報告では、世取山研究員から、犯罪対策を進める上での基本的な考え方を踏まえ、茨城県警察における児童虐待対策をは
じめとした子供の安全を守るための取組や自動車盗対策、飲酒運転対策、不法就労対策について詳細に報告いただいた。
報告後、児童虐待対策に関する警察から児童相談所への情報共有や人事交流の有無等について質疑応答が行われ、児童虐待と
関連しているDV情報についても他機関との間で共有する意義について指摘がなされた。
第二報告では、廣瀬研究員から、縦軸としての歴史的観点からの少年法制の変遷及び横軸としての比較法的観点からの少年法
制の検討を基盤にしつつ、わが国の少年法制の現状と課題について報告が行われた。
報告後、少年法の令和3年改正の評価や5年後の見直しの方向性について質疑応答が行われ、家庭裁判所裁判官による保護処分
決定の在り方や特定少年の場合の「虞犯少年」規定に代替する措置の必要性、第5種少年院の意義について議論が行われた。
<報告をされる世取山招聘研究員>
<報告をされる廣瀬招聘研究員>
◇WIPSS第81回定例研究会開催記録
- 開催日時:2023(令和5)年1月21日(土)13:00−16:30
- 開催場所:会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館3階312教室及びオンラインでの開催(Zoomウェビナー)
- 報告者・報告タイトル:
柑本 美和 招聘研究員(東海大学法学部法律学科教授)
「犯罪を行った精神障害者の処遇」
小長井 賀與 招聘研究員(長野大学社会福祉学部教授)
「刑事司法領域の多機関連携についての一考察」
- 報告概要:
第一報告では、柑本研究員から、医療観察法施行以前における措置入院制度の問題を踏まえた上で、医療観察法の意義や運用
状況について説明がなされ、「治療反応性」に起因する医療観察法における課題と、刑事司法機関に限定されない地域医療の
必要性について報告いただいた。
報告後、強制入院制度縮小の是非や地域医療における連携上の課題について質疑応答が行われ、既存の機関連携を促進するた
めの法整備の必要性や治療反応性のない者への対応に関して議論する重要性が指摘された。
第二報告では、小長井研究員から、日本と欧州の事例をもとに、アセスメントに基づく情報の共有や管理などの多機関連携が
有効に機能するための要件について考察がなされたほか、連携機関同士の協働と相補性という多機関連携による効用や、刑事
政策領域における多機関連携の意義について指摘がなされた。
報告後、質疑応答が行われ、地域生活定着支援センターの運用における都道府県間の格差と今後の方向性について議論され、
裁判だけでなくその後の処遇段階を意識した法曹教育の必要性や、多機関連携において情報の共有だけでなく責任の所在を明
らかにしていく必要性が指摘された。
<報告をされる柑本招聘研究員>
<報告をされる小長井招聘研究員>
◇WIPSS第82回定例研究会開催記録
- 開催日時:2023(令和5)年3月18日(土)13:00−16:30
- 開催場所:会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館3階312教室及びオンラインでの開催(Zoomウェビナー)
- 報告者・報告タイトル:
石田 咲子 招聘研究員(信州大学先鋭領域融合研究群社会基盤研究所助教)
「刑務所出所者等への住居確保の意義―オランダにおけるアフターケア施設の取組を参考に―」
尋木 真也 招聘研究員(愛知学院大学法学部准教授)
「国際法に基づくテロ資金規制と多文化共生の両立―FATF 勧告および SDGs 等の国内実施の観点から―」
- 報告概要:
第一報告では、石田研究員から、オランダにおける刑務所出所者等への住居確保を実施しているアフターケア施設の取組につ
いて説明がなされ、その意義と日本への示唆について報告いただいた。
報告後、オランダのアフターケア施設の運営体制や取組の有効性、同様の施設の日本での展開可能性について質疑応答が行わ
れ、その上で、日蘭の比較をする際に再犯率や再入所率の違いを踏まえて考察することの必要性が指摘された。
第二報告では、尋木研究員から、テロ資金規制の要請と外国人労働者の受入れという現状を踏まえ、持続可能な「発展」目標
(SDGs)やFATF対日相互審査結果、日本国内の対応の観点から、テロ資金規制と多文化共生の両立可能性について検討がな
され、その意義について報告いただいた。
報告後、質疑応答が行われ、テロリストの更生可能性やテロ資金供与を含むテロ関連犯罪の厳罰化の効果について議論が行わ
れた。さらに、テロ資金規制の課題について法社会学的なアプローチで考察していくことの重要性が示された。
<報告をされる石田招聘研究員>
<報告をされる尋木招聘研究員>
◇WIPSS第83回定例研究会開催記録
- 開催日時:2023(令和5)年5月13日(土)13:00−16:30
- 開催場所:会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館3階312教室及びオンラインでの開催(Zoomウェビナー)
- 報告者・報告タイトル:
阪井 光平 招聘研究員(弁護士)
「詐欺犯罪の諸相」
高屋 友里 招聘研究員(東京大学未来ビジョン研究センター客員研究員)
「衛星通信に対する『有害な干渉』禁止規範の展開〜サイバーセキュリティの観点から」
- 報告概要:
第一報告では、阪井研究員から、詐欺罪の構造及び「従来型詐欺」や「現代型詐欺」といった詐欺の分類について説明がなさ
れ、具体的な事例の検討を踏まえ、詐欺罪捜査の問題点について報告いただいた。
報告後には、まず詐欺被害の予防について質疑応答が行われ、事前相談ができる仕組みの構築の必要性について指摘がなされ
た。さらに、詐欺被害の相談の際の警察と検察の連携の重要性や詐欺事件における供述調書の証拠のあり方について議論がな
された。
第二報告では、高屋研究員から、サイバーセキュリティ及び宇宙安全保障に関する国際動向の文脈の中で、意図的な通信衛星
の遮断もしくは妨害に対して、国際電気通信連合(ITU)憲章第45条に定められている「有害な干渉」禁止原則が対応しうる
点について現状も踏まえつつ検討いただいた。
報告後、質疑応答が行われ、宇宙法の分野においては多数国間の枠組みで拘束的なルールを形成することが非常に難しい状況
のなかで、サイバーセキュリティを図るうえでも宇宙法の分野では何ができるのかについて議論がなされ、二国間協定もしく
は技術協定を通じてルール作りを浸透させていくことの重要性が指摘された。
<報告をされる阪井招聘研究員>
<報告をされる高屋招聘研究員>
◇WIPSS第84回定例研究会開催記録
- 開催日時:2023(令和5)年7月15日(土)13:00−16:30
- 開催場所:会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館3階312教室及びオンラインでの開催(Zoomウェビナー)
- 報告者・報告タイトル:
志立 玲子 招聘研究員(NPO法人アパリ事務局長)
「逮捕されたときがチャンス!! 回復につなげる司法サポート」
藤原 究 招聘研究員(杏林大学総合政策学部准教授)
「スポーツ事故における民事責任の再構成」
- 報告概要:
第一報告では、志立研究員から、NPO法人アパリの概要や実施している取組について説明がなされた上で、アパリ司法サポー
トの流れや支援の実際について事例に基づいて報告いただいた。
報告後には、LGBTQの入寮者等と生きづらさの関連性や主に収入面におけるアパリの運営について質疑応答が行われ、また
薬物を自己使用することの非犯罪化の是非について議論がなされた。
第二報告では、藤原研究員から、スポーツの定義やスポーツ事故の概況・裁判例について説明がなされ、スポーツに内在して
いる多様性を踏まえることや事故防止及び補償の制度を確立することの必要性について報告いただいた。
報告後、質疑応答が行われ、「第3期スポーツ基本計画」においてスポーツ事故の補償や被害回復、自立支援、再発防止等の
具体的な取組が記載されていないといった問題点や民事責任の限界について議論がなされ、スポーツ事故の被害者に対する保
険・補償制度といった支援の仕組みを作ることの重要性が指摘された。
<報告をされる志立招聘研究員>
<報告をされる藤原招聘研究員>
◇WIPSS第85回定例研究会開催記録
- 開催日時:2023(令和5)年9月9日(土)13:00−16:30
- 開催場所:会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館4階401教室及びオンラインでの開催(Zoomウェビナー)
- 報告者・報告タイトル:
于 佳佳 招聘研究員(上海交通大学ロー・スクール准教授)
「医療用規制薬物などの乱用に関する法的問題とその対応」
宮古 紀宏 招聘研究員(国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センター総括研究官)
「発達支持的生徒指導の成果としての『学校風土』と学校保護要因に関する研究―米国の学校アカウンタビリティの検討を通して―」
- 報告概要:
第一報告では、于研究員から、中国における医療用規制薬物等の乱用に関する法的問題として、故意・医療関係者等による不
正提供・自己使用・錯誤・未承認薬の利用といった論点を中心に、日本の状況と比較しながら報告いただいた。
報告後には、中国における医療用規制薬物等に対する規制の現況や医療用大麻の扱いなどについて質疑応答が行われ、また警
察と福祉・医療の連携した対応の仕組みについて議論がなされた。
第二報告では、宮古研究員から、『生徒指導提要』に示されている「発達支持的生徒指導」を定着させるための一つの方策と
して、米国カリフォルニア州における学校アカウンタビリティの取組を紹介いただいた上で、それに基づいて現在日本国内で
実施している調査研究の結果について報告いただいた。
報告後、質疑応答が行われ、イギリスにおける学校アカウンタビリティの取組との比較、日本国内における貧困等の影響から
生まれる「学校風土」の地域差などについて議論がなされ、アメリカでの長期欠席生徒への対応を踏まえ、日本でも生徒の将
来に向けた選択肢を広げるためにも「教育的なおせっかい」があることの必要性が指摘された。
<報告をされる于招聘研究員>
<報告をされる宮古招聘研究員>
◇WIPSS第86回定例研究会開催記録
- 開催日時:2023(令和5)年11月18日(土)13:00−16:30
- 開催場所:会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館3階312教室及びオンラインでの開催(Zoomウェビナー)
- 報告者・報告タイトル:
小西 暁和 研究所員(早稲田大学法学学術院教授)
「拘禁刑の下での受刑者処遇の在り方」
小中 さつき 招聘研究員(学習院女子大学国際コミュニケーション学科等非常勤講師)
「国際法の形成における必要性“necessity”の位置付け―海洋環境保護の事例を題材に―」
- 報告概要:
第一報告では、小西研究員から、刑法等の一部を改正する法律により創設された拘禁刑の下での受刑者処遇の在り方について、
拘禁刑の導入の経緯や拘禁刑の法的性質、さらに矯正処遇との関係に焦点を当てて報告いただいた。
報告後には、司法と福祉の連携が進んでいるなかで、矯正の在り方や役割分担について質疑応答が行われ、また刑の概念と現象
を区別する必要性について指摘がなされた。
第二報告では、小中研究員から、海洋環境保護の事例を題材に、力による新たな権利の定着という危険をいかに回避するかにつ
いて、国際法の形成からの分析及び一方的国内措置行使の際の「必要性“necessity”」の中身の検討の視点を踏まえて報告いた
だいた。
報告後には、国際法の他の分野での「必要性“necessity”」の主張の有無や実効性の確保について質疑応答が行われ、必要性の
検討に関連する「正当性」を判断する際の生物資源保護の概念の重要性などについて議論がなされた。
<報告をされる小西研究所員>
<報告をされる小中招聘研究員>
◇WIPSS第87回定例研究会開催記録
- 開催日時:2024(令和6)年1月20日(土)13:00−16:30
- 開催場所:会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館3階312教室及びオンラインでの開催(Zoomウェビナー)
- 報告者・報告タイトル:
戸井 宏紀 招聘研究員(東洋大学福祉社会デザイン学部准教授)
「刑事司法と権利を基盤としたソーシャルワーク」
矢野 恵美 招聘研究員(琉球大学大学院法務研究科教授)
「受刑者を親にもつ子どもについて考える」
- 報告概要:
第一報告では、戸井研究員より、慈善と矯正の関係から米国及び日本におけるソーシャルワーク専門職の成り立ちを説明いただ
いた上で、刑事司法において、ソーシャルワーカーは人と環境の双方に目を向ける専門職の視点を活かして、権利を基盤とした
実践やチームアプローチに取り組んでいく必要性があることについて報告いただいた。
報告後、質疑応答が行われ、刑事司法の組織の中におけるソーシャルワーカーの地位の向上の必要性やソーシャルワーカーがコ
ンピテンシーを証明していく必要性などについて議論がなされた。
第二報告では、矢野研究員より、刑務所内における出産・養育及び社会で暮らす子どもの権利としての受刑者である親との面会
や情報に関する現状と課題について説明がなされ、「受刑者の子ども」ではなく「受刑者を親にもつ子ども」という子どもを中
心とした刑事政策が求められていることについて報告いただいた。
報告後には、質疑応答が行われ、子どもの最善の利益において、子どもの意見や心情を誰がどのように聞き取るのかといった子
どもの意見表明権(子どもの権利条約12条)の運用の在り方などについて議論がなされた。
<報告をされる戸井招聘研究員>
<オンラインで報告をされる矢野招聘研究員>
◇WIPSS第88回定例研究会開催記録
- 開催日時:2024(令和6)年3月18日(土)13:00−16:30
- 開催場所:会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館3階312教室及びオンラインでの開催(Zoomウェビナー)
- 報告者・報告タイトル:
萬歳 寛之 研究所員(早稲田大学法学学術院教授)
「最近の国際情勢と国際法―イスラエル・ガザ紛争を素材として」
棚村 政行 所長(早稲田大学法学学術院教授)
「相続欠格と少年保護処分」
- 報告概要:
第一報告では、萬歳研究員より、イスラエル・ガザ紛争後の特別国際法の対応状況について検討いただいた上で、国連の集団安
全保障体制の機能不全のなか、国際社会における「法の支配」を意識した外交政策の展開について報告いただいた。
報告後、日本の取るべきスタンスや姿勢について質疑応答が行われ、「法の支配」に基づく外交の重要性や国際法を踏まえた外
交の必要性などについて議論がなされた。
第二報告では、棚村所長より、民法上の相続欠格・廃除制度の意義と少年法上の保護処分との関係をめぐる状況について、実際
の事例や判例・学説、および海外での動向といった点から検討いただき、刑事処分等と連動した柔軟性のない相続欠格・廃除制
度の立法上の見直しの必要性について報告いただいた。
報告後には、質疑応答が行われ、少年審判における事実認定に関して論じる際には重大犯罪とそれ以外の犯罪を区別して議論す
る必要性があることについて指摘がなされ、また海外の制度と異なり日本の相続欠格制度では民事と刑事が連動しているという
構造上の問題点について議論がなされた。
また、研究会終了後には臨時研究員総会が開かれ、今年度で定年退職を迎えられる棚村政行所長及び次期所長の松澤伸研究所員
からご挨拶いただいた。
<報告をされる萬歳研究所員>
<報告をされる棚村所長>
<棚村所長の紹介によりご挨拶をされる松澤次期所長>
◇WIPSS第89回定例研究会開催記録
- 開催日時:2024(令和6)年5月18日(土)13:00−16:30
- 開催場所:会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館3階309教室及びオンラインでの開催(Zoomウェビナー)
- 報告者・報告タイトル:
飛田 桂 招聘研究員(弁護士、認定NPO法人つなっぐ代表理事)
「子ども権利擁護センター(CAC)での実践〜系統的全身診察、司法面接、付添犬〜」
鷲野 薫 招聘研究員(更生保護法人両全会企画室長)
「大麻規制に関する歴史的経緯と改正法(大麻草の栽培の規制に関する法律)の運用」
※司会担当者
宍倉 悠太 招聘研究員(国士舘大学法学部准教授)
- 報告概要:
第一報告では、飛田招聘研究員より、児童虐待防止について、現状の日本の制度では子どもの安全を守るための「超」初期対応
のシステムが存在していない点について指摘がなされ、子ども権利擁護センター(CAC:Children’s Advocacy Center)
や多機関多職種チーム(MDT:Multi-Disciplinary Team)の必要性について報告いただいた上で、アメリカでの実践及び
新司法面接プロジェクトや付添犬といった「認定NPO法人子ども支援センターつなっぐ」での実践について紹介いただいた。
報告後、アメリカのCACに関する事業委託の仕組みや個人情報の取扱いについて質疑応答が行われ、今後のわが国でのCACの展
開のあり方として、要保護児童対策地域協議会の活用方法の見直しやクロスレポーティングシステムの導入について議論がなさ
れた。
第二報告では、鷲野招聘研究員より、日本における大麻法制の歴史の紹介や大麻規制に関する国際情勢について紹介いただき、
日本の実情を踏まえ、今後のCBD(カンナビジオール)活用に際しての厚生労働省、法務省、文部科学省等の連携した法制化の
必要性や薬物教育のあり方の見直しについて報告いただいた。
報告後には、質疑応答が行われ、大麻使用に関する解禁派・禁止派の議論自体がかみ合わないことへの問題性や、SNSにおいて
誤った情報が発信される中で、正確な情報を得るための一定の知見に基づいた薬物教育の必要性について議論がなされた。
<報告をされる飛田招聘研究員>
<報告をされる鷲野招聘研究員>
◇WIPSS第90回定例研究会開催記録
- 開催日時:2024(令和6)年7月20日(土)13:00−16:30
- 開催場所:会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館3階309教室及びオンラインでの開催(Zoomウェビナー)
- 報告者・報告タイトル:
李 程 招聘研究員(渥美坂井法律事務所・外国法共同事業アソシエイト)
「中国刑法におけるデータガバナンスとデータ保護」
藤野 京子 研究所員(早稲田大学文学学術院教授)
「罪に向き合えるようになるには〜動機づけの視点からの考察〜」
※司会担当者
小西 暁和 研究所員(早稲田大学法学学術院教授)
- 報告概要:
第一報告では、李招聘研究員より、中国におけるデータガバナンスの構造やその課題について報告いただいた上で、中国刑法に
よるデータガバナンスにおけるデータ法益や構成要件に対する解釈の議論、データ保護に関する立法論について紹介いただいた。
報告後には、質疑応答が行われ、日本においてもサイバー犯罪が大きな問題となっていることや現在中国国内でも日本の企業が
電子データを用いて様々な事業・活動をしていることも踏まえ、中国におけるデータ保護に関する法規制の構造を分析していく
上では日本法との比較の視点も取り入れて考察する必要性があるとの指摘がなされた。
第二報告では、藤野研究所員より、特に被害者との関係で罪に向き合うことの重要性が増しているなか、加害者への動機づけの
方向性やそのあり方、また罪を償うことの意味について心理学の各理論に基づいて報告いただき、将来を見据えた責任の概念に
ついて考察いただいた。
報告後、許しの基準やアメリカのプログラムであるVictim Impactについて質疑応答が行われ、加害者には罪に向き合うこと
ができにくい背景要因があることを踏まえ、処遇において加害者が被害者を理解し、罪と向き合える土壌を作る必要性やその工
夫について議論がなされた。
<報告をされる李招聘研究員>
<報告をされる藤野研究所員>
◇WIPSS第91回定例研究会開催記録
- 開催日時:2024(令和6)年9月21日(土)13:00−16:30
- 開催場所:会場:早稲田大学早稲田キャンパス7号館2階212教室及びオンラインでの開催(Zoomウェビナー)
- 報告者・報告タイトル:
瀬田 真 研究所員(早稲田大学国際学術院准教授)
「無人機器の日本の海上安全保障への影響」
矢作 由美子 招聘研究員(文教大学教育研究所客員研究員)
「SNSを通じた青少年のサイバー犯罪と被害の実態調査から」
※司会担当者
宍倉 悠太 招聘研究員(国士舘大学法学部准教授)
- 報告概要:
第一報告では、瀬田研究所員より、海洋法の条約史を概観しながら海上法執行活動を規制する国際法の展開や自動運航機器の分
類と規制に関するIMO(国際海事機関)での議論を報告いただいた。その上で、無人機器に関する国際法規則について、UUV
(unmanned underwater vehicle)の法的地位を踏まえ、主権免除及び管轄権に関する検討が行われた。
報告後には、質疑応答が行われ、宇宙空間やサイバー空間をはじめ規制対象となりうる空間が広がっているなかで、UUVの使用
目的に応じた対応を検討する可能性、判例研究だけではない海洋法以外の対応の在り方、そしてUUVを使う側の責任を考える必
要性について指摘がなされた。
第二報告では、矢作招聘研究員より、サイバー犯罪少年の手口と動機が変化しているという問題意識の下で、サイバー犯罪少年
のケース分析、サイバー犯罪の動向の統計分析、都道府県警察へのアンケート調査、青少年の意識に関するWeb調査の分析の結
果について報告いただいた上で、「金銭セクストーション」(相手の性的な画像・映像をもとに金銭を不当に要求する(恐喝す
る)こと)などネットワーク犯罪による被害の現状についても紹介いただいた。
報告後、質疑応答が行われ、サイバー犯罪の実態解明を警察の犯罪統計の原票から分析する限界点について指摘がなされた。
また、サイバー犯罪少年の立ち直りの在り方を検討するためには、犯行動機やその方法、及び犯行によって得られた利益につい
て参与観察など個別に調査する必要性について議論が行われた。
<オンラインで報告をされる瀬田研究所員>
<報告をされる矢作招聘研究員>
◇WIPSS第92回定例研究会開催記録
- 開催日時:2024(令和6)年11月9日(土)13:00−16:30
- 開催場所:会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館3階310教室及びオンラインでの開催(Zoomウェビナー)
- 報告者・報告タイトル:
江ア 徹治 招聘研究員(元警視庁通信指令官)
「Neurodiversityという考え方と更生保護―ヒトの学習機能を踏まえて―」
宮田 桂子 招聘研究員(弁護士、保護司、駒澤大学法科大学院特任教授)
「民間人からみた再犯防止推進計画」
※司会担当者
小西 暁和 研究所員(早稲田大学法学学術院教授)
- 報告概要:
第一報告では、江ア招聘研究員より、更生保護の各種施策は「ヒトの学習機能に根差した人生の再教育」であるという視点か
ら、学習理論に基づく諸理論に関する分析や、犯罪者処遇モデルの変遷と障害者福祉の理論の変遷との間の関連性について報
告いただいた。その上で、犯罪からの立ち直りには「ヒトの脳の学習プロセス」を視野に入れた議論が必要であるということ
について提言いただいた。
報告後、再犯防止施策の方向性について質疑応答が行われ、Neurodiversityとして説明されるヒトは一人ひとり違うという
点に着目し、対象者が少なくとも社会の中で犯罪を選ばなくても済むような環境を作っていくのが更生保護の現場の実践であ
るという理解が重要であることを指摘された。
第二報告では、宮田招聘研究員より、第二次再犯防止推進計画における三つの基本的な方向性を妨げるものについて、矯正や
更生保護の分野などでの個別具体的な事例を踏まえて検討いただき、その上で「よりそい弁護士制度」など民間人による再犯
防止につなげる取組みについて紹介いただいた。
報告後には、刑罰の在り方に関する質疑応答が行われ、日本の刑罰制度の問題や弊害について指摘がなされ、改善更生・社会
復帰のために問題解決型裁判所や条件付き執行猶予などのダイヴァージョンをはじめとした判決のバリエーションの必要性に
ついて議論がなされた。
<報告をされる江ア招聘研究員>
<報告をされる宮田招聘研究員>