早稲田大学特別研究助成
「発達障害・知的障害のある児童生徒の非行防止支援に関する研究」
2015年度、本研究所の研究員が中心となって、早稲田大学の特定課題研究助成費A(一般助成)に採択され、共同研究C「発達障害・知的
障害のある児童生徒の非行防止支援に関する研究」を実施致しました。概要は以下のとおりです。
1.テーマ 「発達障害・知的障害のある児童生徒の非行防止支援に関する研究」
2.研究組織
研究代表者 石川 正興(早稲田大学社会安全政策研究所所長、同大学法学学術院教授)
研究協力者 小西 暁和(早稲田大学社会安全政策研究所研究所員・同大学法学学術院教授)
吉開 多一(早稲田大学社会安全政策研究所招聘研究員・国士舘大学法学部教授)
鈴木 敏成(東京都七生特別支援学校高等部指導教諭)
研究補助者 宍倉 悠太(早稲田大学社会安全政策研究所事務局員、国士舘大学法学部非常勤講師)
三枝 功侍(早稲田大学社会安全政策研究所事務局員、同大学大学院法学研究科博士後期課程)
石田 咲子(早稲田大学社会安全政策研究所事務局員、同大学大学院法学研究科修士課程)
3.研究期間 2015年4月〜2016年3月末
4.助成額 直接経費総額 700,000円
5.研究概要
2012年に文部科学省は、全国の公立小中学校の通常学級において、発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童
生徒が約6.5%在籍しており、うち約4割の児童生徒は指導計画を作るなどの支援を受けていないという調査結果を公表した。
発達障害者や知的障害者の中には犯罪・非行を繰り返す者も存在するが、障害自体が犯罪・非行の直接的要因になっているとは
考えにくく、成人になる前段階において発達障害・知的障害が学校・職場でのコミュニケーションに困難を来たしたことにより彼らの
居場所が狭められ(被害者化)、引いては逸脱行動へと至る(加害者化)ことが多い。
そうした困難はコミュニケーションの範囲が広がる中学生期以降に多く現れるが、特に通常学級に在籍する「知的な遅れの無い発達
障害」や「知的障害の境界圏」にある児童生徒の場合は、この時期に初めて障害が見つかっても、既に逸脱行動が進んでいることが
あり、学校だけでの対応が困難になるケースが多く見られる。
他方、少年院や児童自立支援施設の調査によれば、過去に親からの虐待を受けたことのある者が半数以上に及ぶという結果が示され
ているが、その中には幼児期における障害による育てにくさが基で親から虐待を受け、中学生以降に加害者へと転じる者が少なから
ず存在しているものと推測される。
以上の問題意識をもとに、本研究では中学生期における発達障害・知的障害のある児童生徒を対象に、その非行防止体制構築のため
の学校と他の関係機関との適正・有効な連携の在り方を考察する。
(1)特定課題研究会(第1回)開催記録
1.日時:2015年7月11日(土)10:00〜12:00
2.会場:早稲田大学早稲田キャンパス9号館207号教室
3.報告者・報告タイトル
益子 千枝 氏(WIPSS招聘研究員、兵庫県地域生活定着支援センター相談員、精神保健福祉士・福祉心理士)
「知的障害・発達障害をもつ非行少年支援の現状と課題〜トラブルシューターを中心に」
4.報告概要
益子氏から、知的障害・発達障害をもつ非行少年支援の試みとして、関西エリアのトラブルシューターネットワークの仕組み
および活動に関する紹介と、触法障害者支援のポイントについて報告がなされ、引き続き質疑応答が行われた。
(2)国立重度知的障害者総合施設のぞみの園参観ならびに関係者との意見交換会の実施
1.日時:2015年8月11日(火)13:30-16:30
2.参加者
@石川 正興(WIPSS所長)
A鈴木 敏成(東京都立七尾特別支援学校指導教諭)
B吉田 博子(東京都立白鷺特別支援学校教諭)
C宍倉 悠太(WIPSS事務局員)
D三枝 功侍(WIPSS事務局員)
E石田 咲子(WIPSS事務局員)
3.のぞみの園関係者
@遠藤 浩(理事長)
A中川 英男(理事)
B小林 隆裕(社会生活支援課長)
4.参観および意見交換会概要
初めに、遠藤氏・中川氏・小林氏から、のぞみの園の歴史と最近の動向について説明が行われた。
その後研究棟へ移動し、小林氏から、のぞみの園における知的障害・発達障害児者支援業務・研究業務の全体像と、
主に地域生活定着促進事業と連動した触法知的障害・発達障害児者支援の現状と課題について説明が行われ、特別支援教育や
犯罪者処遇の観点からの意見交換が行われた。
意見交換後、触法知的障害・発達障害児者を受け入れている「自活訓練棟」の参観を行った。
(3)東京都立七生特別支援学校・七生福祉園参観ならびに関係者との意見交換会の実施
この度早稲田大学特定課題研究の一環として、東京都立七生特別支援学校・七生福祉園の参観を行い、
発達障害・知的障害のある児童生徒の非行防止支援の現状と課題に関する意見交換会を実施しました。
1.日時:2015年9月15日(火)9:00−12:00
2.参加者
@宍倉 悠太(WIPSS事務局員)
A三枝 功侍(WIPSS事務局員)
3.七生特別支援学校・七生福祉園関係者
@鈴木 敏成氏(七生特別支援学校指導教諭)
A御代田 久実子氏(七生福祉園児童課長)
4.参観および意見交換会の概要
@七生特別支援学校の参観をふまえ、鈴木氏から同校における知的障害・発達障害児教育の全体像に関して説明が行われた後、
触法知的障害・発達障害児への対応における他機関との連携の現状と課題について意見交換を行った。
A七生福祉園の参観をふまえ、御代田氏から特別支援学校卒業後の就労支援や地域移行に関して説明が行われた後、
触法知的障害・発達障害児の受け入れや生活支援、問題が起きた際の対応における他機関との連携の現状と課題について
意見交換を行った。
(4)京丸園株式会社視察・聞き取り調査
1.日時:2015年11月6日(木)14:00-17:20
2.参加者
@石川 正興(共同研究Cの研究代表者)
A宍倉 悠太(共同研究Cの研究協力者)
B黒川 滉登(早稲田大学法学部石川ゼミ受講生)
C村下 夏美(早稲田大学法学部石川ゼミ受講生)
3.京丸園関係者
@鈴木 厚志氏(京丸園株式会社代表取締役)
4.参観および意見交換会概要
鈴木氏から、京丸園の理念(「ユニバーサル農業」)・障害者雇用の現状に関する概括的な解説を受けた後に水耕農園に赴き、
当農園が障害者を雇用する上で実際に考案・導入した様々な工夫について克明な説明を受けた。 また、犯罪者の就労支援策としての
ソーシャルファームの可能性について、鈴木氏がかつて訪れたオランダの実例が紹介されたが、それは今後のわれわれ研究にとり
示唆に富むものであった。
(5)埼玉福興株式会社視察・聞き取り調査
1.日時:2015年11月11日(水)10:30-17:00
2.参加者
@石川 正興(共同研究Cの研究代表者)
A宍倉 悠太(共同研究Cの研究協力者)
B黒川 滉登(早稲田大学法学部石川ゼミ受講生)
C村下 夏美(早稲田大学法学部石川ゼミ受講生)
3.埼玉福興関係者
@新井利昌氏(埼玉福興株式会社代表取締役)
A荒井広志氏(埼玉県立特別支援学校羽生ふじ高等学園教諭・埼玉福興株式会社研修生)
4.概要
埼玉福興における障害者雇用の経緯と事業の現状に関して新井氏から説明を受けた後、農業分野における障害者雇用の展開可能性に
ついて同氏および荒井氏と意見交換を行った。引き続き、両氏とともに農場(クラリス農園)に赴き、障害者雇用の現場を視察しながら質
疑を交わした。
なお、埼玉福興では最近某少年院からの依頼を受けて、障害のある出院者を受け入れており、今後も障害のある非行少年の雇用を行っ
てきたいとのことであった。
(6)鹿児島花の木農場視察・聞き取り調査
1.日時:2015年12月7日(月)11:30-15:30
2.参加者
@石川 正興(共同研究Cの研究代表者)
A宍倉 悠太(共同研究Cの研究協力者)
3.花の木農場関係者
@中村隆重氏(社会福祉法人白鳩会・農業法人根占生産組合理事長兼管理者)
A大久保洋平氏(社会福祉法人白鳩会総務課)
4.概要
中村氏から花の木農場における農福連携開始の経緯・矯正施設出所者等(成人・少年)受け入れの現状と課題・今後の展望について
説明を受けた後、大久保氏と農場に赴き、生活と就労の現場を視察しながら質疑を交わした。
(7)「早稲田大学特定課題研究会(第2回)」・「科研費就労支援研究会(第4回)」合同研究会開催記録
1.日時:2016年1月23日(土)13:00−17:30
2.会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館411号教室
3.報告者・報告タイトル:
@鈴木 敏成氏(東京都立七生特別支援学校指導教諭・WIPSS招聘研究員)
「入所施設に併設する七生特別支援学校の教育〜『自己肯定感を育む』『就労支援と生活支援』『性教育』をキーワードに〜」
A新井 利昌氏(埼玉福興株式会社代表取締役)
「クラリス農園における障害者雇用の現状と課題」
4.報告概要
第一報告では、鈴木氏から特別支援教育の概要について紹介が行われた後、「自己肯定感」「就労支援と生活支援」「性教育」をテーマ
に、特別支援学校における教育の現状と課題について報告が行われた。
第二報告では、新井氏から埼玉福興株式会社のあゆみと、農福連携の現状と課題、矯正施設出所者の雇用に関する報告が行われた。
各報告後、特別支援学校への進学状況や、知的障害・発達障害児に対する性教育の在り方などをテーマに、参加者との間で活発な
質疑応答が交わされた。
<研究会風景>
(8)大阪府・岡山県関係機関聞き取り調査
2016年2月2日(火)から3日(水)にかけて、共同研究Cの一環としてWIPSS所長の石川正興と同事務局員宍倉悠太の2名が
大阪府・岡山県の
以下の機関・団体を訪問し、聞き取り調査を実施しました。以下概略を記載します。
@大阪保護観察所堺支部訪問・聞き取り調査
日時:2月2日(火)10:00-11:30
応対者:道野 重信氏(統括保護観察官)
中嶋 慎一氏(保護観察官(更生保護施設担当))
調査項目:(ア)大阪保護観察所堺支部から更生保護施設泉州寮への保護観察対象者委託の方法、(イ)泉州寮の運営の現状と課題、
(ウ)保護観察所からみた泉州寮の処遇の評価
A更生保護施設泉州寮訪問・聞き取り調査
日時:2月2日(火)14:00-15:30
応対者:溝 己貴男氏(施設長)
調査項目:(ア)泉州寮の沿革、(イ)泉州寮の運営の現状と課題、(ウ)泉州寮における自動車整備工場を活用した処遇の現状と課題、
(エ)対象少年の特徴
B総社市グリーンファーム訪問・聞き取り調査
日時:2016年2月3日(水)10:30-14:30
応対者:坪井 直人氏(代表理事)
坪井 絹江氏(元理事)
吉田 裕司氏(総社市保健福祉部福祉課障がい福祉係主事)
調査項目:(ア)グリーンファームの沿革、(イ)障害者就農の現状と課題、(ウ)総社市における「障害者千人雇用」の取組み、
(エ)「そうじゃ地・食べ公社」による農産物買取の取組
(9)「早稲田大学特定課題研究会(第3回)」・「科研費就労支援研究会(第5回)」合同研究会開催記録
1.日時:2016年3月5日(土)14:00−17:00
2.会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館411号教室
3.報告者・報告タイトル:
中村 隆重氏(社会福祉法人白鳩会 鹿児島花の木農場理事長)
「花の木農場における触法障害者雇用の現状と課題」
4.報告概要
中村氏から社会福祉法人白鳩会の設立と農業分野参入、触法障害者の雇用に至る経緯や、花の木農場経営の現状と課題について
報告が行われた。
報告後、白鳩会の規模や障害者雇用の現状、花の木農場と地域とのかかわり方や今後の展望について活発な質疑応答が交わされた。
<研究会風景>
(10)宮川医療少年院聞き取り調査
2016年3月7日(月)に、共同研究Cの一環としてWIPSS所長の石川正興が宮川医療少年院を訪問し、聞き取り調査を実施しました。
以下概略を記載します。
1.日時:3月7日(月)10:00-12:00
2.応対者:佐藤 秀紀氏(次長)
3.調査項目:(ア)宮川医療少年院における知的障害・発達障害を有する非行少年の矯正教育の現状、(イ)収容少年の退所後の福祉や
就労支援との連携の状況
(11)喜連川社会復帰促進センター聞き取り調査
2016年3月17日(木)に、共同研究Cの一環としてWIPSS所長の石川正興が喜連川社会復帰促進センターを訪問し、聞き取り調査を
実施しました。以下概略を記載します。
1.日時:3月17日(木)13:00-16:00
2.応対者:竹中 樹氏(センター長)
3.調査項目:(ア)喜連川社会復帰促進センターにおける知的障害・発達障害を有する受刑者処遇の現状と課題、(イ)センター出所後の
就労支援や福祉との連携の状況および展開可能性
(12)中津少年学院参観・意見交換
特定課題研究の一環として、8月2日(火)に中津少年学院を参観し、担当者との意見交換を行いました。 概要は以下のとおりです。
1.日時:2016年8月2日(火)13:00-16:00
2.訪問メンバー
石川 正興(WIPSS所長)
宍倉 悠太(WIPSS招聘研究員)
3.概要
院長から収容状況の説明を受けた後、学院における特定生活指導をはじめとする処遇の現場を視察した。視察後、統括専門官から
新少年院法施行後の知的障害・発達障害少年に対する矯正教育の取組みの説明を受け、退院後の就労支援のあり方などについて
意見交換を行った。
(13)「早稲田大学特定課題研究会(第4回)」・「科研費就労支援研究会(第6回)」合同研究会開催記録
2016年9月3日(土)に総社市長の片岡聡一氏をお呼びし、合同研究会を開催しました。その詳細は、【W】共同研究B(継続)「非行少年・
犯罪者に
対する就労支援システムの展開可能性に関する考察」の活動報告に記載のとおりです。