JST石川プロジェクト月報
PDF版は以下のリンクからご覧頂けます。
・JST石川プロジェクト月報8・9月号(PDF)
・JST石川プロジェクト月報10月号(PDF)
・JST石川プロジェクト月報11・12月号(その1)(PDF)
・JST石川プロジェクト月報11・12月号(その2)(PDF)
・JST石川プロジェクト月報1・2月号(PDF)
今回は、2012年1月・2月に行った以下の調査等について報告します。なお、月報は今回の配信で終了いたしますが、石川PJの研究成果については3月15日(木)開催の公開シンポジウム(第二次)において報告させていただきます(下記URLをご参照ください)。
<石川PJ公開シンポジウム(第二次)開催要領>
http://www.waseda.jp/prj-wipss/jst7.html
【T】北九州市・横浜市・札幌市における「子ども・若者支援地域協議会」オブザーバー参加および意見交換会
(1)「北九州市子ども・若者支援地域協議会」オブザーバー参加および意見交換会(2012年1月19日)
(2)「横浜市子ども・若者支援地域協議会」オブザーバー参加(2012年1月21日)
(3)「札幌市子ども・若者支援地域協議会」オブザーバー参加および意見交換会(2012年1月27日)
【U】横浜市の連携の仕組みに関する補充調査
(1)横浜市東部学校教育事務に対する聞き取り調査(2012年2月2日実施)、および横浜市西部学校教育事務に対する聞き取り調査(2012年2月21日実施)
【V】石川PJ座談会
【T】北九州市・横浜市・札幌市における「子ども・若者支援地域協議会」オブザーバー参加および意見交換会
犯罪・非行を行った少年に対しては、初期対応の段階における機関連携が重要である一方、中学生期の少年の場合は、その後の自立も視野に入れた善後措置の場面における機関連携のあり方も重要な課題となります。そこで石川PJでは、こうした犯罪・非行に関わる少年の立ち直り支援も視野に入れて研究を進めておりますが、おりしも2010(平成22)年には引きこもり・不登校の青少年や、非行を行った青少年等の就学・就業の支援等を目的とする「子ども・若者育成支援推進法」が成立しており、上記のような少年の立ち直り支援のあり方をこうした法の枠組みと関連付けて考察することには大きな意義があると考えております。
特に、石川PJの研究に協力いただいている北九州市・横浜市・札幌市は、内閣府による「子ども・若者支援地域協議会体制整備モデル事業」を受託しており、全国に先駆けてその体制整備が進んでおります。今回は、その実務者会議にオブザーバー参加することの許可が得られました。
以下でその概要を説明いたします。
(1)「北九州市子ども・若者支援地域協議会」オブザーバー参加
参加者と調査結果の概要は以下の通りです。
参加者
1.早稲田グループ(全2名)
@石川正興(早稲田大学法学学術院教授・同大学社会安全政策研究所所長/研究代表者)
A宍倉悠太(早稲田大学社会安全政策研究所研究助手/研究代表者及びその率いるグループ連携研究者)
2.法務省参加者(全1名)
@東山哲也(法務省矯正局少年矯正課係長)
3.札幌市参加者(全2名)
@松田考(札幌市若者支援総合センター副館長)
A松本沙耶香(札幌市若者支援総合センター相談担当)
4.北九州市応対者(全4名)
@村上真一(北九州市子ども家庭局子ども家庭部青少年課係長)
A山本浩(北九州市子ども家庭局子ども家庭部青少年課主査)
B長谷川理恵(子ども・若者応援センター「YELL」運営管理責任者)
C戸内智子(子ども・若者応援センター「YELL」相談員)
調査結果概要
(A)北九州市「子ども・若者支援地域協議会」の実施体制
北九州市では代表者会議を年1〜2回、実務者会議を毎月1回開催する体制を採っている。子ども・若者育成支援推進法(以下、「法」という)21条に基づく支援調整機関を「子ども家庭局青少年課」がつとめ、法22条に基づく「指定支援機関」は指定していない。地域協議会の構成機関は以下のとおりである。
(a)学校教育関係
福岡県公立高等学校長協会北九州地区(代表者会議)
福岡県私学協会北九州支部(代表者会議)
北九州市教育委員会指導部(代表者会議)
福岡県高等学校養護教諭研究会北九州支部(実務者会議)
北九州市教育委員会指導第二課(実務者会議)
(b)保健福祉・医療
北九州市子ども総合センター(代表者会議・実務者会議)
北九州市保健福祉局障害福祉部(代表者会議)
北九州市保健福祉局総務部(代表者会議)
北九州市民生委員児童委員協議会(代表者会議・実務者会議)
北九州市子ども総合センター教育相談担当(実務者会議)
ひきこもり地域支援センター(実務者会議)
北九州市発達障害者支援センター(実務者会議)
北九州市保健福祉局総務課(実務者会議)
北九州市精神保健福祉センター(実務者会議)
(c)矯正保護・非行対策
福岡県警本部生活安全部少年課少年健全育成室(代表者会議)
福岡保護観察所北九州支部(代表者会議・実務者会議)
小倉少年鑑別支所(代表者会議・実務者会議)
(d)雇用
小倉公共職業安定所(代表者会議・実務者会議)
北九州市産業経済局総務政策部(代表者会議)
福岡県若者サポートステーション(代表者会議・実務者会議)
若者ワークプラザ北九州(実務者会議)
(e)相談
北九州市子ども家庭局子育て支援・健全育成担当(代表者会議)
子ども・若者応援センター「YELL」(実務者会議)
NPO法人STEP北九州(代表者会議)
(g)その他
北九州市総務市民局安全・安心部(代表者会議)
北九州市消費生活センター(実務者会議)
北九州市青少年ボランティアステーション(実務者会議)
(f)総括
北九州市子ども家庭局子ども家庭部青少年課
(B)概要
今回オブザーバー参加した「実務者会議」においては、北九州少年サポートセンター、北九州市子ども総合センター、子ども・若者応援センター「YELL」からの相談ケースが検討された。いずれも単一の機関のみでは対応が困難なケースについて、初期対応とその後の経過等についての報告が行われたほか、今後の方針等について参加機関からの活発な意見交換が行われた。
会議の中では、20歳を超えた対象者のケースについて、少年鑑別所が例外的に善後措置として相談に乗ることで対応しているケースが紹介された。これは、特に乳幼児から概ね40歳未満までを対象とする「子ども・若者支援地域協議会」によってこそ、関係機関と連携がとれた好事例として挙げられるものといえる。またこうしたケースは、非行のみならず、ひきこもりや不登校の経験者に対しても、少年鑑別所のような機関が相談機能を十分に発揮できることを示しているといえる。「少年矯正を考える有識者会議」では、「少年鑑別所の専門的な知識・技術をより広く活用するため、従来実施している一般少年鑑別、その他非行・犯罪者処遇にかかわる技能提供について明確に位置付ける」ための法整備の必要性が主張されているが、上記の事例は、こうした流れに拍車をかけるものとして注目に値すると思われる。
(C)支援マップの作成
また、ケース検討の他には、「北九州市子ども・若者支援機関マップ」のリーフレットの紹介があった。これは、子ども・若者の立ち直り支援に関わる関係機関をマッピングし、地理的に把握できるリーフレットであり、平成23年度の内閣府モデル事業として作成したものである。なお、札幌市においても、同様のリーフレットを作成し、配布するとのことであった。
(2)横浜市「子ども・若者支援地域協議会」オブザーバー参加
参加者と調査結果の概要は以下の通りです。
参加者
1.早稲田グループ(全2名)
@石川正興(早稲田大学法学学術院教授・同大学社会安全政策研究所所長/研究代表者)
A宍倉悠太(早稲田大学社会安全政策研究所研究助手/研究代表者及びその率いるグループ/連携研究者)
2.法務省参加者(全1名)
@小林万洋(法務省矯正局少年矯正課企画官)
3.札幌市参加者(全2名)
@松田考(札幌市若者支援総合センター副館長)
A松本沙耶香(札幌市若者支援総合センター相談担当)
4.北九州市参加者(全2名)
@山本浩(北九州市子ども家庭局子ども家庭部青少年課主査)
A戸内智子(北九州市子ども・若者応援センターエール相談員)
5.千葉市参加者(全1名)
@内山俊雄(千葉市こども未来局こども未来部健全育成課主査補)
調査結果概要
(A)横浜市「子ども・若者支援地域協議会」の実施体制
横浜市は、子ども・若者育成支援推進法上の協議会として2010(平成22)年7月に「横浜市子ども・若者支援協議会」を設置している。2011(平成23)年度は「思春期健全育成部会」と「若者自立支援部会」の2部会、および神奈川県・周辺自治体とともに困難を抱える子ども・若者を育成支援する仕組みを検討するための「横浜・神奈川若者支援連絡会」を協議会内に設けて運用している。
特に横浜市は、子ども・若者の立ち直り支援を実施するためのシステムが既に相当程度整備されている。その代表的なものは、不登校やひきこもりの青少年の「社会的自立」のため相談支援を行う「青少年相談センター」、また厚生労働省が事業化し、就労体験等の支援を含めた経済的(職業的)自立支援を行う「地域若者サポートステーション」、さらに、人口の多い同市において、上記双方の機能を有した支援の拠点として市内3ヵ所に設置されている「地域ユースプラザ」による「ユーストライアングル」の支援体制である。このほかにも個々の青少年に対し長期に寄り添う形で支援が行われる仕組みである「よこはま型若者自立塾」が2008(平成20)年10月から開始されており、同様に2010(平成22)年度からは、様々な要因を抱えていることで失業状態・不就労状態にある者に対し個別の就労支援を行う内閣府による「パーソナル・サポート・モデル事業にも参加している。こうした状況を受け、横浜市の「子ども・若者支援地域協議会」は、これら既存の仕組みのさらなる充実・強化を主な目的として設置されているといえる。
構成機関(委員)は以下のとおりです。
(a)思春期健全育成部会
公益社団法人地域医療振興協会
神奈川県警少年相談・保護センター
横浜市青少年指導員連絡協議会
横浜市健康福祉局
NPO法人CAPかながわ
都築区青少年地域活動拠点
公益財団法人よこはまユース
横浜市立小学校会
横浜市立中学校会
(b)若者自立支援部会
NPO法人さいたまユースサポートネット
横浜市立横浜総合高等学校
湘南・横浜若者サポートステーション
公益財団法人よこはまユース
NPO法人「育て上げ」ネット
国際ロータリー第2590地区元職業奉仕委員長
よこはま西部ユースプラザ
よこはま若者サポートステーション
なお石川PJでは、本協議会の事務担当者と別日程で意見交換会を行った際に、少年矯正・保護を担う少年鑑別所や保護観察所の参加についても検討してはどうかとの提案をしており、今後の参加が期待される。
(B)概要
「思春期健全育成部会」では、子ども・若者の健全育成のために、「人が人とつながる、異分野が同居する、一人ひとりに多様な居場所がある環境整備」の必要性を認識し、地域全体で青少年の育ちを見守りながら、青少年の健全育成に包括的に取組仕組みを確立することを主張した。他方、「若者自立支援部会」では、支援につながらない子ども・若者を発見し、適切な相談支援機関やプログラムにつなげ、自立に向けた段階的・包括的な支援を提供していく仕組みの確立を主張した。
これを踏まえ、具体的には以下の提案が出された。
(1)地域で子ども・若者を見守り、課題を早期発見する仕組みづくり
@中学生から40歳未満までの子ども・若者の交流・支援の拠点としての「地域青少年プラザ(仮称)」の全区設置
A「東部方面地域ユースプラザ」の設置
B「より身近な居場所」の整備・拡充
C複合的な困難を抱える青少年に対する寄り添い型支援の実施と全区展開
D学校、矯正・保護施設、児童養護施設等への情報提供と啓発活動とアウトリーチの充実
(2)適切な支援につなげるための総合相談・調整
@青少年相談センターの相談調整機能の強化と、「青少年総合相談センター」「新・青少年交流センター」の設置
A分野別専門相談機関との連携強化
B若者サポートステーションの機能の充実
(3)段階的な体験・訓練プログラムから自立につなげる取組
@困難を抱える10代後半の青少年のための共同生活型「青少年しごと・生活塾(仮称)」の整備
A困難を抱える20〜30代の若者を対象とした「よこはま型若者自立塾」の専用施設整備
B農業・漁業などを中心とした就労の場づくり
(4)子ども・若者を支える社会の仕組みづくり
@地域において青少年の大人への育ちを支援し見守る環境を整備するための「知っておきたい!子ども・若者どこでも講座(仮称))の展開
A青少年相談センターによる研修機能の拡充などを通じての「子ども・若者支援」を担う人材や団体の育成
横浜市では今後、「横浜市児童福祉審議会」「横浜市次世代育成支援行動計画推進協議会」「横浜市放課後子どもプラン推進委員会」と連携して、子ども・若者に対する切れ目のない支援の仕組みについて検討していく予定である。
(3)「札幌市子ども・若者支援地域協議会」オブザーバー参加および意見交換
参加者と調査結果の概要は以下の通りです。
参加者
1.早稲田グループ(全3名)
@石川正興(早稲田大学法学学術院教授・同大学社会安全政策研究所所長/研究代表者)
A宍倉悠太(早稲田大学社会安全政策研究所研究助手/研究代表者及びその率いるグループ/連携研究者)
B三枝功侍(早稲田大学大学院法学研究科修士課程/研究代表者及びその率いるグループ研究アルバイト)
2.法務省参加者(全1名)
@東山哲也(法務省矯正局少年矯正課係長)
3.北九州市参加者(全2名)
@山本浩(北九州市子ども家庭局子ども家庭部青少年課主査)
A長谷川理恵(北九州市子ども・若者応援センターエール運営管理責任者)
4.横浜市参加者(全1名)
@関口昌幸(横浜市子ども青少年局青少年育成課係長)
5.千葉市参加者(全1名)
@藤田孝明(千葉市こども未来局こども未来部健全育成課課長補佐)
6.札幌市応対者(全2名)
@松田考(札幌市若者支援総合センター副館長)
A松本沙耶香(札幌市若者支援総合センター相談担当)
調査結果概要
(A)札幌市「子ども・若者支援地域協議会」の実施体制
札幌市では年に2度の代表者会議と、2カ月に一度実務者会議を開催する体制を採っている。法21条に基づく支援調整機関を「札幌市若者支援総合センター」がつとめ、法22条に基づく「指定支援機関」を「財団法人札幌市青少年女性活動協会」が担当している。なお、支援調整機関である「札幌市若者支援総合センター」は、厚労省の委託事業である「若者サポートステーション」事業を受託しており、相談にとどまらず、就労支援までも実施できる体制が整備されていることが特徴である。
実務者会議の構成機関は以下のとおりである。
(a)学校教育関係
札幌市教育委員会学校教育部指導担当課
札幌市教育センター
(b)保健福祉・医療
札幌市児童相談所
札幌市保健福祉局保健福祉部障がい福祉課
札幌市自閉症・発達障がい支援センター
札幌市精神保健福祉センター
北海道ひきこもり成年相談センター
市立札幌病院静療院
(c)矯正保護・非行対策
札幌少年鑑別所
北海道警察本部生活安全部少年課
(d)雇用
札幌市経済局雇用推進部人材育成担当課
ジョブカフェ北海道
北海道労働局職業安定部職業安定課
さっぽろ若者サポートステーション
(e)その他
財団法人札幌市青少年女性活動協会
全国引きこもりKHJ親の会家族会連合会・北海道「はまなす」
北海道フリースクール等ネットワーク
(f)総括
札幌市教育委員会生涯学習部生涯学習推進課
(B)概要
@札幌市は子ども・若者支援地域協議会の他に、「ユースアドバイザー養成講習会」を開催している。内容は「総論」「基礎研修」「専門研修」に分かれており、「総論」は一般市民を対象とした子ども・若者支援の周知、「基礎研修」は分野・手法別の学習を行うことによる地域支援者の連携向上とスキルアップ、「専門研修」はモデルケースを用いて、機関連携を活用した実際の支援方法について検討している。なお、平成23年度の「総論」「基礎研修」は、特に中学校・高等学校の教員へのアプローチ強化を狙っており、学校との連携を強化することで、課題を抱える子どもをより早期に支援の流れに乗せられる仕組みづくりを目指している。
A上述のとおり、札幌市の実務者会議は「ユースアドバイザー養成講習会」の「専門研修」も兼ねており、子ども・若者支援に関する基礎的な知識の習得を目的に、「発達障がい」「ひきこもり」「不登校」「非行」などのテーマごとにモデルケースを使用した対策のシミュレーションとしての研修を行っている。またケーススタディは必ず各分野の専門家であるスーパーバイザーを招聘して行われる。
(C)支援マップの作成
北九州市と同様に、札幌市においても子ども・若者の立ち直り支援に関わる関係機関をマッピングし、地理的に把握できるリーフレットを作成しており、その紹介がされた。
【U】横浜市の連携の仕組みに関する補充調査
(1)横浜市東部学校教育事務に対する聞き取り調査(2012年2月2日実施)、及び横浜市西部学校教育事務に対する聞き取り調査(2012年2月21日実施)
横浜市では、教育委員会の出先機関として市内4方面に設置されている学校教育事務所が、市内4箇所の児童相談所と管轄区域を同じくして連携の円滑化が図られているなど、学校・教育委員会を端緒とした多機関連携において、この学校教育事務所が重要な役割を担っています。
そこで今回、4方面の学校教育事務所のうち、東部学校教育事務所と西部学校教育事務所の聞き取り調査を実施しました。このうち前者では、主に学校教育事務所の業務内容と他機関との連携状況を、後者では主にこの学校教育事務所が、市内4箇所の児童相談所の管轄に合わせて設置された経緯について調査しています。
参加者と調査結果の概要は以下の通りです。
参加者
1.早稲田グループ(全2名)
@宍倉悠太(早稲田大学社会安全政策研究所研究助手/研究代表者及びその率いるグループ連携研究者)
A帖佐尚人(早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程/学校教育行政機関調査担当グループ研究アルバイト)
2.横浜市応対者(全4名)
@河島一(横浜市教育委員会事務局東部学校教育事務所指導主事室首席指導主事)
※横浜市東部学校教育事務に対する聞き取り調査(2012年2月2日)対応者
A佐藤潤(横浜市教育委員会事務局東部学校教育事務所指導主事室担当係長)
※横浜市東部学校教育事務に対する聞き取り調査(2012年2月2日)対応者
B立田順一(横浜市教育委員会事務局西部学校教育事務所指導主事室首席指導主事)
※横浜市西部学校教育事務に対する聞き取り調査(2012年2月21日)対応者
C大木靖博(横浜市教育委員会事務局西部学校教育事務所教育総務課教職員係長)
※横浜市西部学校教育事務に対する聞き取り調査(2012年2月21日)対応者
調査結果概要
(A)学校教育事務所の4方面設立の経緯
横浜市の地方分権化の推進施策のもと、2007(平成19)年に分権化推進担当が市教育委員会総務課内に設置され、地方分権型の教育行政の在り方が模索された。最初は、市内の各方面に独立した教育委員会を作るという単純な構想でスタートしたが、その後軌道修正が加えられ、教育委員会の出先機関としての学校教育事務所を各方面に設けることとなった。なお、この分権化推進担当は、設立初年度の2007(平成19)年度は4名体制であったが翌2008(平成20)年度には8名に増員され、さらに2009(平成21)年度に指導主事4名が配置されるなどで計16名となった。そして2010(平成22)年4月に各方面事務所が立ち上がる際に、その役目を終えて解散となっている。
計画では当初、市内4〜6箇所に方面事務所を設置する方向で検討が進められたが、その中に児童相談所の4区分と一致させるという案や、駅からの利便性を重視する案等があった。これまで学校と児童相談所はあまり身近な存在ではなかったものの、昨今の児童虐待の増加、市長の児童虐待防止に対する取組強化施策、また小学校における児童支援専任教諭の配置事業(※「石川PJ月報10月号」(3)A参照。)等により、連携の必要性が近年大きく高まっていた。折しも2007年6月に横浜市の児童相談所が市内4ヵ所体制へ移行したこともあり、今後は児童相談所(や区役所)との連携を強化しようとの意図から、市内4箇所の児童相談所の区分に合わせた学校教育事務所の方面設定を行うことに決定された。
こうした児童相談所の区分に合わせた方面設定の具体的効果としては、何よりもまず児童相談所の担当者を交えた会議が開催しやすくなったことが挙げられる。例えば2011年度から向陽学園(児童自立支援施設)に公教育を導入することを目的として、学園内に他の学校の分校という形で設置した「桜坂分校」での連携が指摘できる。向陽学園の分校運営においては当然児童相談所とも連携する必要があったのだが、そのための協議の場を設けること等が格段にやりやすくなったとのことであった。
(B)学校教育事務所の職員体制と職務
学校教育事務所には、指導主事が東部16名、西部16名、南部20名、北部20名配置されており、その内訳は例えば東部学校教育事務所の場合、統括(首席)1名、学校担当11名、課題別担当(人権教育担当・児童生徒指導担当・特別支援教育担当・育成担当)各1名となっている。またこのほか、方面毎に人事主事2名、学校支援員(校長OB)2名が置かれており、さらに今年度より、スクールソーシャルワーカー(SSW)2名が各方面事務所に配置されている(SSWについては後述する。)。
学校教育事務所の職務としては、大きく(a)教育活動支援、(b)人材育成、(c)学校事務支援、(d)地域連携推進の4つがある。このうち、本PJの研究において注目されるのが(a)教育活動支援であり、学校教育事務所所属の指導主事が、学校訪問等を通した学校支援(1区2〜4名ずつの学校担当制による教科指導や生徒指導等に関する支援)を行っているのである。
この学校訪問には、予め計画された通年訪問(年最低4回程度)と学校の要請に基づく随時訪問があり、現在のところ1校につき年10回程度が目安となっている。ただし実際にはそれ以上の訪問を実施しており、4方面事務所設置初年度である昨年度は平均約15回、合計約7,300回の訪問を実施した。そのため昨年度は、事務所に待機できる人が少なくなってしまうという事態も発生し、訪問体制の整備が今後の課題として残された。また昨年度の学校訪問は、各指導主事に均等に担当学校を割り振っていたが、実際には区毎で分担したほうが効率的な面が多々あったため、今年度から区毎での学校担当制となっている。
このように現在横浜市では、様々な試行錯誤を経て、学校教育事務所所属の指導主事による教育活動・学校支援活動が整備されつつあるところである。
(C)SSWの各方面配置とその意義
各方面の学校教育事務所に2名配置されているSSWは、1名が心理・福祉の専門家、もう1名は所定の講習を受けた校長OBで構成されており(週4日勤務の嘱託職員)、このSSWが今年度より学校教育事務所に配置されてからは、課題解決のためのケース会議を開くことが極めて容易になったという。すなわち、これまでSSWは教育委員会の人権教育・児童生徒課に配置されていたため、学校からはやや遠い存在であったのである。更に、各方面2名のSSWのうち、心理・福祉系専門家のSSWは医師や児童相談所、区役所などに顔が利き、また校長OBのSSWは各学校に顔が利くと同時に学校の内情をよく理解しているため、この両者がうまく役割分担・協力することで、他機関連携の強力なコーディネーターとして機能しているのである。
こうした学校教育事務所所属のSSWがコーディネーター役となるケース会議は、要保護児童対策地域協議会のケース会議とは全くの別物として開催されており、各学校が抱える事案のうち、関係機関(児童相談所や区役所のこども家庭相談の職員、児童委員・民生委員など)との連携協力を要するような、重篤な事案や長期的な支援を要する事案において開催される。ケース会議開催の決定は、児童生徒指導担当の指導主事が中心となり、学校担当指導主事、首席指導主事、室長が協議し決定する(場合によってはその段階からSSWも協議に加わる。)。ただしこのケース会議の実際の運営に当たっては、各学校の自主性・自律性を尊重する観点から、通常、当該ケースを抱える学校の校長が主催者となって進められている。
このように横浜市では、学校・教育委員会を起点とした多機関連携のコーディネーター役として、SSWが重要な役割を果たしていると言える。なお、SSWに教職経験者を採用すること自体は、例えば東京都など他の自治体にも見られるものであり、必ずしも横浜市独自のものではないが、横浜市におけるSSW運用を特徴付けるものとして注目されよう。
(D)教育委員会・学校教育事務所と区との連携
また、横浜市の教育委員会・学校教育事務所では、区との連携強化が進められている点も特筆すべきである。
横浜市では学校教育事務所開設以前から、教育委員会に市長部局の区役所の課長(学校支援・連携担当課長)を兼務した地域連携推進担当課長(現在、区毎に各1名)が配置され、更に課長の下に嘱託職員として校長OB(同じく区毎に各1名)が置かれている。そして、このうち課長は原則として週に1回程度学校教育事務所に勤務しており、また校長OB計4〜5名が輪番で各方面の学校教育事務所を訪れることで、区との日常的な情報連携体制が構築されているのである。こうした地域連携推進担当課長および校長OBは、教育委員会・学校教育事務所と区が連携を行う上での橋渡しの役割を担っており、いわゆる「縦割り」行政の弊害を少なくすることが可能となっている。
特に、この校長OBの輪番制による定期的な訪問は、4方面事務所の設置以降にシステムとして確立したものであり、また上記の課長4〜5名が集まる会議(月1回)は方面の学校教育事務所で行われるため、これらを通して横浜市では、学校教育事務所を介した区との顔の見える連携体制が推進されていると言える。
【V】石川PJ座談会
2月29日に、これまで石川PJに協力いただいた北九州市・札幌市・横浜市の児童相談所・学校・警察(少年サポートセンター)ならびに法務省の方に早稲田大学にお集まりいただき、「座談会」を開催いたしました。その内容については、3月15日(木)に開催する公開シンポジウム(第二次)の配付資料集に掲載する予定です。
参加者は以下のとおりです。
参加者
1.早稲田グループ
@石川正興(早稲田大学法学学術院教授/研究代表者)
A石堂常世(早稲田大学教育・総合科学学術院教授/学校教育行政機関調査担当グループリーダー)
B田村正博(早稲田大学社会安全政策研究所客員教授/警察行政機関調査担当グループリーダー)
C棚村政行(早稲田大学法学学術院教授/少年保護司法機関調査担当グループリーダー)
D小西暁和(早稲田大学法学学術院准教授/児童福祉行政機関調査担当グループリーダー)
E宍倉悠太(早稲田大学社会安全政策研究所研究助手/研究代表者及びその率いるグループ連携研究者)
F藤原究(杏林大学総合政策学部専任講師/少年保護司法機関調査担当グループ連携研究者)
G横山由美子(敬愛大学兼任講師/児童福祉行政機関調査担当グループ連携研究者)
H帖佐尚人(早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程/学校教育行政機関調査担当グループ研究アルバイト)
I三枝功侍(早稲田大学大学院法学研究科修士課程/研究代表者及びその率いるグループ研究アルバイト)
2.北九州市参加者
@安永智美(福岡県警察本部生活安全部少年課北九州少年サポートセンター係長)
A佐藤哲也(北九州市立折尾中学校教頭/前福岡県警北九州少年サポートセンター係長、北九州市教育委員会指導主事<併任>)
B石田英久(北九州市子ども家庭局子ども総合センター教育相談担当課長)
3.札幌市参加者
@前田幸子(北海道警察本部少年課少年サポートセンター被害少年育成・支援係長)
A二ノ田仙彦(札幌市立栄南中学校教諭/札幌市学校教護協会前幹事長)
B入江幽子(札幌市子ども未来局・児童福祉総合センター相談判定課 相談一係長)
4.横浜市参加者
@阿部敏子(神奈川県警察本部少年相談・保護センター所長)
A中嶋孝宏(神奈川県警察本部少年育成課副主幹/前横浜市立東野中学校生徒指導専任教諭)
B清水孝教(横浜市南部児童相談所所長)
5.法務省参加者
@東山哲也(法務省矯正局少年矯正課係長)